三協マテリアルが発足した2007年、中村も社会人としての
第一歩を踏み出した。分社化による新会社の誕生と
就職という人生の大きな出発が、奇しくも重なり合った。

それからの数年間は、中村にとって“初めての挑戦”に
悪戦苦闘する毎日が続く。振り返れば
“あっという間”にも感じられる駆け出しの日々には、
三協マテリアルと中村の“これから”が凝縮されていた。
中村
2007年入社 工学部材料開発工学科卒業
三協立山(株)三協マテリアル社
技術開発部 材料技術課
中村繁央
2007年6月
三協マテリアル
技術開発部
材料技術課配属


大学時代、中村は材料開発工学科で高分子(ゴム)の研究に取り組んでいた。
「ゴムの研究がしたかったわけではなく、生分解性物質とか環境系のことをやりたいと思って。実験が好きだったので、当時から研究開発職に就きたいと考えていました」
就活時期を迎えた彼は、家庭の事情もあって、地元に帰ることを前提に就職先を探しはじめたという。
「高岡の地場産業といえばアルミ。アルミといって真っ先に思い浮かんだのが三協・立山でした。実は、私の父もアルミ関係の仕事に携わっていたので、子どもの頃から身近な会社でしたね」
2007年4月、中村は志望どおり「三協・立山ホールディングス」に入社。2ヵ月後に発足となった三協マテリアルの技術開発部材料技術課に配属となる。三協立山アルミのマテリアル事業(非建材)を集約・分社化し、グループを支える柱の一つとして新たなスタートを切った三協マテリアル。中村は、その立ち上げメンバーとして技術開発の職務に就いたのである。
「分社化して間もないこともあり、私のような新人でも一人前として扱われました。それで戸惑う部分もありましたが、何もわからないなりに無我夢中でやっていました」
会社も彼自身にとっても、まさに“駆け出し”の日々だったわけだが、落ち着いた様子で微笑む中村の表情からは、当時の苦労や困難はうかがい知れない。いや、それらを乗り越えてきたからこそ、静かな余裕が備わっていると見るべきか。


中村の所属する材料技術課は、彼を含め10数名のスタッフの大半が20代という活気あふれる部署だ。中村いわく「お互いに年齢が近いので、気兼ねなく相談・協力し合える風通しの良い職場」。そこでは、各々がアルミニウムやマグネシウムなどの合金素材に関する「技術テーマ」を受け持っており、その解決に向けた調査・研究・開発が繰り広げられている。
大学時代に中村が学んでいた「材料開発工学」という名称からすると、その延長線上にある仕事のようにも思えるが、彼自身「メタルのほうには全然、関わりがなかった」という。対象とするマテリアルが違えば、通用するメソッドは異なるもの。“畑違い”ではないにしろ“土違い”の領域に飛び込んで約半年が過ぎた頃、中村に初めての技術テーマが与えられた。
「自動車関連の電子部品用ヒートシンクの放熱性能を向上させるというテーマです。お客先から、当社従来品のアルミ合金では保証したことのないレベルの要求品質について引き合いがあり、それを満たすための材料研究から生産技術の確立、標準化までを成し遂げなければならない難しい課題でした」
この技術テーマの遂行に、中村は2年半にわたり悪戦苦闘することとなる。誰にとっても、初めて手がけた仕事というのは忘れられないものである。それが、2年半にも及ぶ長期タスクともなればなおさらのこと。中村が照れまじりに小さくこぼした「思い入れが深い」という言葉は、その間、彼が注ぎつづけたひとかたならぬ情熱が充満し、じんわりと溢れ出しているかのようだった。


「全然わかっていないときから取りかかっていたので、今思えば手順がグチャグチャでしたね。本来なら最初に特許関係とか、いろいろ調べる必要があるのですが、事前調査もなくスタートしてしまったり(苦笑)」
材料技術開発の大まかな流れは、こうだ。まず、開発に際し事前調査として他の類似特許、他社の技術、関連文献などを調査する。次に具体的な実験条件を設定するなど実験計画を立てる。それから、工場で稼働している実機でサンプルとなる形材を成形。その物性が要求品質を満たしているかどうかを測定・調査し、結果を報告書にまとめ、必要に応じて実験条件を組み直す。このような試行錯誤を繰り返しながら、最終的に要求品質に適うマテリアルとそれを製造するメソッドをつくり上げるのだ。
「いろんなトラブルがありました」と感慨深げに話す中村に、トラブルの一例を挙げてもらった。サンプルの試作や品質調査のための各種測定は、メイン工場である石川工場(石川県羽咋郡)で行っていたのだが、お客先が求める品質項目のなかに、既存設備では測定できないものがあったという。そこで、中村は測定できる会社を探し出し複数の外注先に品質調査を依頼した。ところが、
「上がってきた測定値が、それぞれで全く違っていたんです。『どうして、こんなに違うのだろう?』というくらい。測定現場に立ち会ったり、専門家に聞いてみたりしましたが、結論としては『測定誤差』ということに」
JISなどできっちり規格が定まっている素材ならともかく、中村たちが取り扱うモノは不確定要素をはらんだ「規格外」であることも少なくない。いわば“未知の領域”に分け入る材料技術開発のプロセスでは、上述のような手探り状態や右往左往が日常茶飯事なのだ。


初めての技術テーマで、いくつもの苦労や困難に出くわし「全然、思いどおりにはいかない」ことを思い知った中村。それでも、取りかかりから2年半という長きにわたる努力が実を結び、「お客様の要求品質は満たした」といささか胸を張る。
「結果が出たときは、うれしかったですね。長かったとも思いますし、時間に追われて“あっという間”だったとも。技術開発の仕事というと、文献やデータ・数字とにらめっこみたいに思っていましたが、実際やってみたら全然違っていました」
調査や報告書作成といったデスクワークが半分、残りの半分は工場などの現場に出て、成形・加工の立ち会いや品質確認のための各種物性値測定に費やすという。中村のデスクがある高岡本社から石川工場までは、片道30キロ以上ある。サンプルの押出実験や品質調査のために、デスクと工場の間を何度も往復した。工場の実機を用いてサンプルを成形するには、当然、生産管理部門や現場スタッフとの意思疎通が不可欠となる。
「現場スタッフのなかには、かなり“クセ”のある方もいらっしゃるので、その人その人に応じて仕事を進められるような、柔軟なコミュニケーション能力がすごく大事だと痛感しました」
この技術テーマ遂行を通して、中村は材料技術開発の実際を体得し、その神髄に触れたようだ。
「現状の私の知識や情報は、まだまだ偏ったものでしかありません。材料や押出だけではなく、表面処理や加工について、もっと幅広い知識・情報を収集できるようになる必要があります。そうして、淘汰されることなく世の中に残るような商品を生み出せる開発者になりたいです」
三協マテリアルと中村の“これから”が、ますます楽しみでならない。

昨今のニュースで「就職氷河期」などといわれていますが、自分のやりたい仕事に向かって頑張ってください。同じ職場で共に働くとしたら、柔軟な人がいいですね。自分の意見をはっきりと言いつつ、他人の意見にもちゃんと耳を傾けられる人。やっぱり、コミュニケーションが取れないと仕事にならないので。私が所属する部署には個性の強い者が多く、アットホームで和気あいあいとした雰囲気です。冬場の週末には同僚と一緒にスノーボードを楽しんだりしてリフレッシュしています。入社してから、運動不足の解消に10kmマラソンも始めたので、休日は身体を動かしていることが多いですね。
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